第19章 その後のはなし
湯に浸かる前に体を洗わねばならないので、杏寿郎は備え付けてある檜の椅子に咲を座らせた。
「俺が体を洗ってやろう!」
「えっ!!」
確かに先ほど入浴の手伝いをお願いしたが、しかし、歩けないだけで腕一本は普通に動くので、髪や体を洗うことくらいは自分でできる。
(体を洗ってもらうって…それってやっぱり裸を見られるってことで……)
「…駄目だろうか?」
咲が黙りこくって目を白黒させているのを見てシュンとした杏寿郎に、今度は咲の方が「ん゛っ!!」と言う番だった。
泡をたっぷりと立てた手ぬぐいで、大きな手が意外なほど繊細に体を洗ってくれる。
その心地よさに咲は目をつぶる。
恥ずかしさもあったが、それ以上に杏寿郎の思いやりが嬉しかった。
腕一本、足一本を失った体は、自分で見てもひどく歪に感じる。
だが額に汗を浮かべながら、愛おしそうに己の肌を洗ってくれている杏寿郎を見ると、もうそんな卑屈な心はこの湯で流してしまおうと思えるのだった。
ザバッと熱いお湯をかけられて、道中でかいた汗がさっぱりと流されると、今度は咲が手ぬぐいを握って言った。
「私も杏寿郎さんのお背中をお流しします!」
「うむ!ではお願いしよう!」
ドッカ、と背を向けて座った杏寿郎の広い背中。
そこには今までの任務でついたであろう大小様々の傷跡が残っていた。
筋肉の浮き出たその逞しい背中をゴシゴシとこすると、「よい加減だ!気持ちいいぞ!」と杏寿郎は嬉しそうに言う。
「俺は日本一の幸せ者だな!」
「いいえ。一番は私ですよ」
咲のその言葉に、振り向いた杏寿郎は嬉しそうに声をあげて笑ったのだった。