第15章 離れていても君を想う
「だが、使うのはどうしようもなくなった時だけにしとけよォ?鬼に見つかったら、とにかく逃げることだ。お前は隠なんだからなァ。鬼を殺すのは、俺達剣士にまかせときゃいい」
「はい」
不死川の穏やかな笑顔を見て、こくんと咲は素直に頷く。
「いい子だァ」
満足そうに不死川は頷いて、自身もおはぎを食べ始めた。
日夜外を駆け回っている割には日に焼けていないその白い頬が、おはぎを頬張ってふっくらと膨らんでいるのを見ながら、咲は手元に戻ってきた拳銃をちらりと見下ろした。
拳銃の練習のために悲鳴嶼邸でお世話になっていた時、休憩時間に玄弥が言っていた。
「鬼殺隊の中で拳銃を持っているのは俺だけだったらしい。だけど、これからは俺と咲の二人になったな」
まるで秘密を共有するかのように、ニッと唇の端を上げて玄弥は笑った。
八重歯というほどではないのだが普通の人よりも少しだけ大きい犬歯のせいで、その顔がなんだかイタズラ小僧のように見えて、咲は一緒になってクスクスと笑ったのだった。
玄弥のそういうあどけない笑顔は、兄である不死川実弥が時折見せる笑顔とよく似ていた。
普段はギョロリと大きく見開かれた瞳が、まるで目尻に重りでも付けたかのように垂れ下がり、狂犬のような表情とは打って変わって可愛いらしいものに変わる。
よく似た兄弟だ。
見た目だけでなく、中身も。
二人共強面だけど、実はとても優しくて情に厚い。
そしてそれが人には伝わりにくいという損な性分。