第14章 冨岡さん、一体どういうことですか?
「うああ」
「義勇さん、落ち着いて!大丈夫ですから…」
義勇が聞いたこともないような声をあげて、さらに咲の背中に隠れるようにしがみついた時、
すっと伸びてきた小さな手が、すくい上げるように子犬を抱き上げた。
「あらあら冨岡さん、そんなに怯えて一体どうしたんですか?」
ニコニコと美しい微笑みを浮かべたしのぶが、咲に密着している義勇を見下ろして言った。
彼女は腕に抱いた子犬を義勇の眼前へと、掲げるように差し出す。
「もしかして、こんな子犬が怖いんですか?」
ほれほれー、とでも言うかのように子犬をチラつかせ、ニコニコと笑っているしのぶ。
完全に遊んでいる。
そこへ炭治郎もやって来た。
「義勇さん!」
思いがけず見てしまった兄弟子の怯え切った様子に驚いているようだったが、さすがに成人男性が年頃の女の子にしがみついているのはよろしくないと思ったのか、何とかなだめすかして、くっつき虫のように咲に張り付いている義勇を剥がしにかかった。
まるで駄々をこねる幼子のような様子に、しのぶは笑いを堪えるように唇を引き結んでいる。
「それにしても冨岡さん、仮にも柱であるあなたが女の子の後ろに隠れるとは、一体どういうことですか?」
「……っ、あれは約13年前…」
「またですか。そんな昔のところから話されても困りますよ。嫌がらせでしょうか?」
ほーれほーれ、といった感じで、再度しのぶは腕の中にいる子犬を義勇に差し出す。
「……っ!!」
せっかく炭治郎が剥がしたというのに、まるで磁石が吸い寄せられるかのように義勇はまた咲に張り付いてしまった。
「お、俺は…子どものころ犬に尻を噛まれた。だから犬は嫌いだっ」
若干涙目になっている義勇。
「はいはい、分かりましたから。それ以上私の咲にくっつかないでくださいね」
そう言ってしのぶは、片手に子犬を抱き、もう片方の手で義勇の手を引いて離れて行った。
その後ろ姿はまるで、姉と弟のように見えたのだった。