第10章 産屋敷財閥に任せなさい
その得意げな様子を見て善逸が叫び声に近い絶叫を上げる。
「えーっ!!何!?伊之助っ!いつの間に咲ちゃんに親分呼びしてもらってんだよ!!キイイイーッ!!うらやましいいィィーッ!!」
「善逸!もう夜なんだから静かにしろ」
「だってだってぇ~!!俺だって咲ちゃんに特別な呼ばれ方したいよぉ~!」
「善逸!いい加減にしろ!」
まるで駄々っ子のようにバタバタと手足を振って転げまわる善逸の首根っこを炭治郎がぎゅっと押さえつけると、首を掴んでぶら下げられた猫のように善逸は静かになった。
普段からよくやられているらしく、その反応はもう条件反射になっているようだ。
そんな二人の様子を咲はキョトンと見つめていたが、ぷっ、と思わず吹き出してしまった。
「炭治郎さんは、本当にみんなのお兄ちゃんですね。……私の二番目の兄にどことなく似ています。年齢的にも同じくらいですし。兄も、とても面倒見の良い人でした」
ふふふ、と穏やかに笑う咲の言葉に、炭治郎は胸がホワホワと温かくなる。
根っからの長男気質である彼が、そう言われて嬉しくならない訳がない。
「ちなみにですが、杏寿郎さんは上の兄に似てます。……だから今日、お二人と一緒に出かけられて、とても嬉しかったです」
ふにゃりと笑った咲の幼い顔。
耳にかけた黒髪がサラリと落ちて、その動きに乗って炭治郎の鼻に微かな香りが届いた。
それは、幸福の匂い。
炭治郎が昔、きょうだい達や両親から感じていた匂い。
昼間、咲のことを優しく見つめていた杏寿郎からも感じた匂い。
炭治郎は不意に目の奥がじわ、と温かくなってくるのを感じながら、にっこりと笑顔を浮かべた。
「うん、俺もすごく嬉しかったよ。また一緒に行こうな」
そう言って炭治郎は、咲の小さな頭を何度も優しく撫でてやったのだった。