第10章 産屋敷財閥に任せなさい
そんな訳で、三人は連れ立って街へと繰り出したのだった。
杏寿郎は今日もさりげなく車道側を歩いて、内側を歩く咲に危険が無いように気を配っている。
杏寿郎と炭治郎に挟まれるようにして歩いている咲の、着物の袂がヒラヒラと軽やかに風になびいた。
普段ならなびくようなもののない服を着ているのだが、咲は今、桃色の着物に濃い緋色の袴を身につけていた。
なぜ隠の隊服から着替えたのかと言うと、あの後しのぶが、「せっかく街に行くのなら、着替えてみたらどうでしょう。隠の隊服だと目立つでしょう?」と言ってくれたからだ。
「咲、その着物とっても可愛いね」
炭治郎が、まるで妹の禰豆子に言うようにして褒める。
そのニコニコとした日だまりみたいな笑顔に、咲も自然と笑顔になる。
「ありがとうございます。カナヲちゃんが貸してくれたんです」
着替えるためにしのぶに連れられて歩いている時、カナヲとばったり会い、だったら自分の着物を貸してあげるということになったのだ。
咲は、カナヲも一緒に出かけないかと誘ってみたのだが、用事があると非常に残念そうな顔で言われてしまった。
「うむ!実に愛いな!よく似合っている」
「杏寿郎さん、ありがとうございます」
炭治郎同様に、ニコニコと笑顔を浮かべて言う杏寿郎のことを見上げて、咲は少し頬を染めた。
そんな咲のことを見下ろしている杏寿郎の顔は、炭治郎が今までに見たこともない柔らかいものだった。