第6章 はっけよいのこった
そんなことを考えていたせいで、ついホワホワして周りに注意がいっていなかったらしい。
前方から歩いてきた男性と咲はぶつかりそうになった。
「あっ」
「わっ」
男性の方もよそ見をしていたらしく、お互いにびっくりして声をあげた時、くいっと咲の肩を杏寿郎が引き寄せた。
「連れが失礼した」
咲を胸に抱いたまま、杏寿郎は男性に軽く会釈をする。
男性も被っていた帽子を軽く上げて「いやいや、こちらこそ失礼した」と会釈すると、自分よりも幾分目線の低い咲に腰をかがめて言ってくれた。
「お嬢さん、すまなかったね」
「い、いえ!私の方こそ、失礼いたしました」
ペコリと頭を下げた咲に男性は紳士的な笑顔を浮かべると、再度上品に帽子を上げて去っていった。
男性を見送って、咲がふと上を見上げると、杏寿郎がじいっとこちらを見下ろしていた。
「咲!道を歩く時はよそ見をしてはダメだぞ!」
「は、はい!以後気をつけます」
咲は慌てて大きく頷いた。
「うむ!素直でよろしい!」
杏寿郎は満足そうに頷いて、またスタスタと歩き始めた。