第6章 はっけよいのこった
拳を合わせた後、杏寿郎はいつものように胸の前で腕組みをして、まるで燦々と輝く太陽のようにニカッと笑った。
「ときに咲!少し時間はあるか?これから相撲を見に行かないか!」
「お相撲ですか?」
ニコニコと笑う杏寿郎の顔を咲はキョトンとした顔で見上げたが、(そう言えば杏寿郎さんは相撲観戦がお好きだった、それに能とか歌舞伎も)、と思い出した。
「はい!ちょうど届け物も終わったところだったんです!お相撲、見に行きたいです」
「それは良かった!では早速行こう!」
杏寿郎はカッと大きな声で言うと、炎の柄の羽織をはためかせて歩き始めた。
その後ろに、咲もチョコチョコと小走りで続いたのだった。
街中では、剣士の服装はまだ良いのだが、隠の格好では目立ってしまう。
何しろ全身黒ずくめであるし、帽子に顔布まで付けているので、ほとんど顔が見えない。
街の人達からしたら不審人物である。
なので咲は、帽子と顔布は外した。
背中に大きく入った「隠」の文字は鞄で隠す。
「うむ!やはり咲の顔が見えた方がいいな!」
咲の顔を見下ろして杏寿郎が満足そうに言う。
そんな杏寿郎の顔を見ると、咲は何故だか少し頬が熱くなってしまうのだった。
二人で並んで道を歩いていく。
大きな道なので、荷車や馬車が頻繁に往来しており、ごくたまに自動車が通ったりもする。
咲がふと気づいた時には、杏寿郎は咲を守るように車道側を歩いてくれていた。
それがあまりにもさりげなくて、視線が合えばまるで太陽のようにニコッと笑ってくれる。
こうやって杏寿郎と並んで歩いていると、咲は言葉にしようもないほどに幸せを感じるのだった。
まるで全身を暖かい光に包まれているような心地よさと安心感だ。
杏寿郎と出会って間もない頃から思い始めたことだが、杏寿郎は咲の長兄に似ている。
見た目や性格などは全く違うが、こうしてさりげない優しさを見るたびに、つい兄の姿を重ねてしまうのだった。