第3章 ー巻島裕介の場合ー
全ての片付けが終わって、泊まるホテルに着いたのはもう夜も遅くて。
そのまま私がベッドに倒れ込むと、隣に座った裕介はその綺麗な指で髪を撫でてくれて。
「んなことしたらせっかくの綺麗な髪型が台無しッショ」
「もう結婚式終わったんだもん良いじゃん?」
「良くねェよ。俺がまだ全然堪能してねェショ」
「え、裕介打ち合わせの時からずっと見てるじゃん」
「それと今日の本番とは違うショ!今日のが比べ物になんねェくらい綺麗に決まってンダヨ」
真っ直ぐに見つめられれば恥ずかしくなって。高校の時はこんな喋ることもなかったし、裕介の方から私に触れることも少なかった。
やっぱりイギリスに行って変わったと思う。
良い点としてはコミュニケーションがとれるようになった…というか。
初めて話したときなんて私が一方的に話してただけ。それでも私が惚れた弱みってやつなのか、一緒に居て楽しかったんだけどね。
悪く言えば小言が増えた。主にファッション関係で。そりゃさ、裕介もお兄さんの事業と同じデザイナーやってるからわからなくもないけどさ!極々普通のOLに求めないでよって思うんだよね。
相変わらず結婚式用に綺麗にしてもらった私の髪を弄ってる裕介を見れば、何かを思い出したように短い声を発すると式場に持っていった道具の山の方に行ってしまって。
「そォいやさ、これ東堂から。ワインっぽいショ」
「え、東堂くんわざわざワインまで?この前東堂庵に招待してもらったばっかなのに…」
「アイツが、愛する巻ちゃんの門出は盛大に祝わないとなとか言ってたゼェ?また今度お返ししたら良いだろ」
「なんか、最初からずっとお世話になってるなぁ東堂くんに。彼が居たから私は裕介に出会えたんだし」
「なんか認めたくはネェけどな」
綺麗にラッピングされたワインにつくづく気が利く男だなと感心する。そういうところも素敵だなって思ってたんだよね高校生の頃は。
まぁ、東堂くんとレースしてた裕介に全て奪われちゃったんだけど。
「あとこっちは…オレと兄貴からッショ」
「え?裕介と…お兄さんから?」
何だか照れくさそうにしながら差し出された袋。裕介は頭を掻いてベッドにドサッと座り、私が袋を開けるのを待っているようで。
よくよく見てみたら裕介のお兄さんがやってるお店のもの。何だか緊張しながらそっとラッピングを外した。