第2章 戸惑いこころ
コーヒーをひと口、飲み込む。
落ち着きたい。
でも、沢山の人の言葉が頭を埋め尽くしている。
「石津はお前と話したそうにしてたぞ」
「石津さんはね、歩み寄ろうとしてるよ。」
「お姉ちゃん、嬉しかったって言ってたの。」
「お前は、石津のことをちゃんと見たことあるか?」
グッと握りすぎた缶が、少し凹んでいた。
ぐるぐる渦巻いた言葉は、溶けて絡んで
まだ頭に残っている。
コーヒーの最後のひと口を体に流し込む。
頭の中の物も、僕の中に飲み込めれば
どんなにいいかと思う。
わかってるんだ。
時折、話したそうに僕に視線を向けてくる事。
とっくに届いてる教科書があるのに、僕が渡したファイルも一緒に使ってる事。休み時間でもそれをずっと読んでる事。
それでも。
「そんなに簡単じゃ無いんだよ、黒崎」
ひとりごちてゴミ箱に放った缶は音を立てて入る。
耳障りな音と共に、屋上からは誰もいなくなった。