第8章 鈴音の再会
「石津さんが言った通りにね、辛いことも確かにあったんだよ。
自分のことが嫌になるくらい………人に嫉妬したこともあって、それが分かってもっと嫌な気持ちになった。
それが……結構、辛くって。」
話を聞いている間に、思わずしんみりしてしまった空気をかえるみたいに、織姫さんは明るく言葉を紡いだ。
「でも、そんな真っ黒な気持ちも含めて私の心なんだって思えるようになってからは、大事にしたいと思ったの。」
「どうしてですか?」
「私の思いぜんぶが…………その、黒崎君がっ、す……好きって気持ちに行き着くからっ……かな」
その言葉を聞いて、私はしばらく動けなかった。
気恥ずかしいけれど、純粋にーー凄いなと思ったから。
織姫さんは、揺るぎなく真っ直ぐ黒崎さんを思っている。
それこそ私には、眩しすぎるくらいに。
誤魔化したくて、でも、織姫さんに笑ってほしくて私は口を開いた。
「…………………詩人ですね。台詞が」
「……言ってから恥ずかしくなっちゃった」
お互いに顔を見合わせて、どうしてか可笑しくて笑ってしまう。
と、カウンターテーブルに沿った目の前の窓ガラスに人影が写りこんだ事で、私達はふとそちらを見て………ピシリと固まってしまう。
噂はなんとやら、黒崎さんが立っていたからだ。