第2章 人魚との遭遇
船の破片と共に多くの人間たちが海に落ちてくる。海中から見ているとそれは、あの時の人魚のように見えた。
「…まさかあの時のマーメイドは、人間だったのか……?しかも、死んだ人間……」
ポセイドンは愕然とした。己をなぐさめるほどに恋焦がれた人魚は、人魚ではなく人間だったのだ。しかもすでに息絶えた人間。
沈んでいく者、海面に浮く者。そんな中、ポセイドンの脳裏に浮かぶ人魚とよく似た女が沈んで来た。
「…‼あれは!!」
海水を操り、彼女を引き寄せる。見れば見るほどあの時の人魚にそっくりだ。
「おお…‼マーメイド‼」
彼女が苦しみ出した。まだ生きていたのだ。恐らく意識をなくしていたのだろう。
「そうか、人間は海中で息が出来ないんだったな。待ってろ、今助ける!」
ポセイドンは彼女のまわりの海水を動かし空気で覆った。
「ぷはあっ!げほっ、げほっ!」
海中で息が出来ることに戸惑う彼女がポセイドンを見る。その目は明らかに恐れを抱いている目だった。
「恐れることはない。俺は海王ポセイドンだ」
「えっ?!ポセイドンって、神話の…?」
「ああ、そうだ」
「どうして私を助けたの…?」
「俺が一目惚れした女に似ていたからだ」
彼女は大きくため息をつくと秘かに
「余計なことを…」
と呟いた。その時2分割された船が思った以上の早さで沈んで来た。
「危ない!」
とっさに彼女をかばうと船の割れて鋭くなった部分がポセイドンの背中をかすめ、その辺りの海水を血で染めたのだ。
「ぐっ…!」
「キュー!」
慌てた相棒が仲間をもう1頭呼んで、彼女と一緒にポセイドンをねぐらへ運び、彼女に手当に必要な物を渡していく。
「…そうね、手当しないとね」
「心配…いらないぜ、相棒。この程度の傷くらいでへこたれる、ポセイドン様じゃない…」
立ち上がろうとするも、彼女に止められた。
「駄目よ。手当するから座ってて」
彼女はポセイドンの傷を診る。思ったより深い傷だった。
「ひどい傷…。どうして私なんかをかばったりしたの?」
「レディー。…っそんなに自分を…っ、さげすむもんじゃない…。君は、美しい」
「よしてよ、お世辞なんて」
一通り手当が済んで、横向けに寝かせる。
「お世辞じゃ、ないぜ…。あの時一目惚れした想いが…よみがえった、くらいだ」