第31章 arousal
「ずいぶん体力も回復したな。あんだけ動けりゃ大丈夫……── いてっ。殴るなよ、“主治医”を」
まだ狂暴性が残っているのか。いや、これが彼女の普通の状態だったか。強烈なツッコミに対して、頬を緩めて笑った。
「本格的に、治療をする」
「よろしくお願いします、“先生”」
『医者』と『患者』に戻った二人
しかし それが名残惜しくて、ローは裸のまま くるまっているシーツごとアルコを抱き締めた。アルコも満足そうに、ローに寄りかかるように首を傾けて微笑む。
二人とも ずっとそうしていたかったのに、ローは何かを思い出して、身体を離した。
「そう言えば、忘れてたな」
「?」
「なんか、ないか?」
「…なんかって、何よ」
いぶかしむアルコに構わず、ローは辺りを見回して“なんか”を探している。
「??」
ローはシーツの上にあった長い黒髪をつまみ上げ、アルコの目の前に差し出した手のひらの上に乗せた。能力によって皿に入れ替えられたそれの上に、今度は短い黒髪を拾って乗せる。ローが再び指を動かすと、フルーツのたくさん乗ったタルトが表れた。こぼれ落ちそうな程のカラフルな果物がナパージュでコーティングされて、ツヤツヤと輝いている。それ以上に、大きく開けたアルコの瞳は輝いた。
しかしアルコは、膝に抱えた枕に 再びウズウズと埋まってしまった。
どうせ嬉しくて泣いてるんだろ
それを見られたくないんだろ
おれはその顔が みたいのに
「食っちまうぞ」
ローのその脅しにアルコは ようやく顔をあげた。
やはり
予想通りの その顔
そして その先にあるのは
期待以上の笑顔と
おれには なかなか『素直』に言えない
こんな風に お前みたいに
正面からは『素直』に言えない
あの言葉
「ありがとう」
シーザーの部屋にあるローの心臓は、突然 覚醒したように脈打って跳ねた。