第31章 arousal
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「心臓が、ないじゃない…!?」
「今さらかよ」
激しい“衝動”の波は、引きつつあった。
ベッドの上に裸のままで重なり合った二人には、今までにはなかった穏やかな時間が流れ始めている。
アルコは ローの胸の上で四角くくり貫かれた部分をなぞった。アルコは一瞬、他の傷同様 自分がやってしまったのかと困惑するが、正常な判断力が戻りつつある彼女には、それがロー自身の能力によるものだとすぐに理解できた。
ローはこの島に上陸した時、シーザーに提案された“取引”を思い出していた。
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『おれの大切な秘書…モネの心臓を、お前に預かってほしい』
『ええ…、いいわよ』
それは突然現れたローに命を握られるということを表していた。にも関わらず、モネは“何の問題もないこと”とでも言うようにシーザーに返事をした。
“人質”になることに何のためらいもない
この女は“M(マスター)”シーザー・クラウンを それほどまでに信頼しているというのか
それとも ────
ローが二人の関係を推測している途中、シーザーから交換条件が出される。
『お前も “その女”の心臓をよこせ!それで契約成立だ!!』
『…断る』
『…なら滞在は認めねぇ…。ここにいるなら、お前の立場を弱くすべきだ』
全員の視線が、ソファに横たえさせた眠り続けるアルコに移る。ローは仕方なく考えうる“最善策”を自ら提案した。
『…おれの』
『?』
『!?』
『おれの心臓を預ける』
『シュロロロロ…! それで契約成立だな!!(この男…、バカなのか…?)』
『……』
ローの差し出した心臓を、シーザーは嬉しげに、モネは冷めたような目つきでみていた。
~*~*~
「いずれ取り返す。アルコは気にしなくていい。それより まずは…治療だな」
「そう…。まぁ、でも、その前に」
アルコは、髪をなでるローの手を頭の上に乗せたまま、穴の空いた胸の上で上目遣いに恥じらった。
「…もう一回」
ローは顔をひきつらせながらも、声を出さずに笑ってそれを了承した。