第31章 arousal
吸い寄せられるように、血濡れた口元に唇を寄せる。上唇同士がわずかに触れ合っただけで、ローは込み上げる嬉しさを噛みしめて思わず固く目を閉じた。
その唇が、あたたかかったから
彼女が眠っている間、幾度となく触れ続けた 絶望感と現実を突きつける冷たい唇とは異なっていたから
触れる吐息に導かれて、濡れた唇を押しあてた。
はじめは触れ合わせた唇をスライドさせるだけだったが、舌を使うと鉄の味が広がる。
自分の血液。
彼女のものならばまだしも決して気持ちのいいものではないが、そんなことはどうでもいいくらい、とにかく唇のあたたかさが嬉しくて、両ほほを挟んでとらえたまま唇を舐め回した。はじめは人形のように茫然としていたアルコも、唾液で血の味が薄まった頃には ゆるゆると力の抜けた舌で応えるようになっていった。
「……ぅ、はぁっ…」
ようやくキスらしくなり、息遣いが激しくなってきた頃、鋭い痛みがローの口内に走った。
「……ッ!?」
舌を噛まれた。
怯んだところに のしかかられ、馬乗りになられる。アルコはローにまたがって、上から妖しく微笑んだ。
一筋の髪で部分的に隠された目で、見下ろされる。
「…ちょ、うだい…」
先ほどの怯えた小動物のような雰囲気は一切なく、今度は色気と妖しさをまとった妖艶さが漂う。その姿に魅力されたローは口の端を舐めて、目を細めた。ワンピースドレスの肩に手をかけてずらすと、素肌の肩と胸元があらわになる。
(──── きれいだ)
しなやかで
動物的で
艶っぽい
窓から射す外灯の光に浮かび上がったそのシルエットに、思わず みとれた。
「…ああ。いくらでも」
虜にされたように反射的に言葉を返し、舌を差し出した。