第30章 in the fog 【後編】
その日
能力を使って、荷物だけ先に船に移動させた。ホテルの部屋を引き払い、眠っているアルコを抱きかかえて霧の街を歩く。
島では いまだに祭りが続いている。アルコを抱えて歩くことよりも、浮かれた表情の男女を避けることの方が格段に面倒だった。
大きな木のあるロータリーまで来たところで、ローは歩みを止めた。
「みえるか。…きれいだな」
眠っているアルコをツリーにかざしてやる。昼間でもカラフルにライトアップされた電飾は 白い霧に乱反射して、本当にそこにあるのかと疑う程に幻想的だった。その大きさからくる迫力に、ローは思わず息を飲む。
『祭りが始まったら見に行くか…アルコが行きてェなら』
『行きたい。一緒に、行こう』
あんなに嬉しそうにしてたのに
見せてやれなくて…悪かったな
多くの恋人らしき男女が このロータリーで歩みを止め、うっとりと大木を見上げている。
ローは無表情で眠るアルコを見つめながら、その表情を想像した。
きっと おれの予想以上に
嬉しそうに
きれいに
笑うんだろうな
彼女を見つめるその表情は柔らかく緩んでいた。彼は自分がそんな表情を出来る事に、自分では気づかない程に。
深い霧と恋人達に紛(まぎ)れて、ローはアルコをうずくまらせるように抱き直し、帽子のつばで周囲から隠しながら唇に触れるだけのキスをした。
霧の島を後にする。
相変わらず起きる気配のないアルコを丁寧に船に横たえ、ローはパンクハザードへ向けて出航した。