第30章 in the fog 【後編】
ミストリア島の とある港
小型だが豪華な船から港に降り立った その男は、ゆっくりと首を回してコキコキと骨を鳴らした。
その妖しい威圧感は、この島全体を覆っている深い霧に吸収され、無駄に周囲に広がることはなかった。
それは果たして幸運か、不運か ────
その男は“目付け役”の年寄りと数人の柄の悪い部下を連れ、大股で通りを歩く。
「浮かれた島だな…」
笑顔で通りを行き交う人々や飾りつけられた街並みに、男は眉間にシワを寄せながら そう感想を漏らした。
「なにやら…、明日から祭りがあるらしいですぞ」
目付け役の老人がそう進言した。
「フンッ…、まァ…関係ねェな。今日中には終わらせる」
「当然じゃ。行きますぞ、“若”」
「あァ…、行こう」
目的の場所は『高台にある緑色の屋根の豪邸』。
ドンキホーテ・ドフラミンゴが纏っているピンク色の羽も 霧の街並みへと沈み、灰色に染まっていった。
*
ドフラミンゴのサングラスの下の目線は、ある女を捕らえていた。
大通りの向こう側。浮かれた人々に混じって、ショーウィンドウにみとれて足を止めている女がいた。
長い黒髪に、大きな楽器を背負っている女。その腕には紙袋が抱えられていた。よっぽど大事なものが入っているようだ。
「あの女…、どこかで見たな」
ドフラミンゴは歩みを止めて、ラオGに問いかけた。
「はて…、そうじゃったか…?」
年寄りの記憶は当てにならない。若い部下たちを見るが、全員が首をひねった。
(いいや…、どこかで会っているハズだ…)
どこか気になる女だった。そのまま放っておいて通り過ぎることもできたのだが、ドフラミンゴは自分の直感に従った。