第29章 in the fog 【前編】
キッチンスタジオを出て、アンティークショップを通り抜ける。アルコはプリンとアンティークショップのオーナーに再び丁寧に礼を言ってから店を後にした。
「良いお祭りを。アルコ」
「ええ、プリンも。本当に、どうもありがとう!」
(……こちらこそ)
背負われた竪琴の弦の上に弾む黒髪を、プリンは見送った。髪で弦がなでられて、透明な音が鳴った気がした。それを聴きながら、プリンは思考にふける。
──── 美味しく出来たとは思う
テンパリングも調温も 完璧に
ただ、チョコレートに少しの雑味が入っていたことが気になった
素人にはわからないレベルの雑味だとは思うけど
だって 彼女があんなこと言うから
まるで私のこの忌まわしき“第3の目”を
受け入れてくれる人がどこかにいるみたいなこと言うから
「電伝虫が…、プリン様宛てのようですじゃ」
店の奥に戻っていたオーナーに声をかけられて、プリンは振り返る。
「ママからだよ~」
ふわふわと宙に浮かぶジュウタンのラビヤンに乗ったゼリーのニトロが、プリンにそう告げた。
プリンは顔を切り替えて、店の奥へと入っていった。
*
「ママ?
…傭兵団の方はジェルマじゃなかったみたい。そう。ファミリーの方は…、まだわからない。引き続き調査するわ」
『その島に七武海がいるって情報もある…。とくに七武海…政府の人間は厄介だからね。
念のため、“将星”をひとり向かわせた』
「“将星”…、まさか兄さんを?」
『ああ。じきに着く頃さ。
あとは お前の能力で…、島でのトラブルはちゃんとトラブルごと“消し”ときな。
すでにお前がその島にいるってことは、話題になってるそうじゃないか。
万一騒ぎが起きて海軍でも呼び寄せでもしたら…“計画”が台無しだよ。おれ達がジェルマの科学力を狙ってると政府にバレたら面倒だ』
「わかってる、任せて。
私はママのかわいい人形なんだから」