第29章 in the fog 【前編】
数週間の航海の後、船はまもなく目的地であるミストリア島に到着する。
『ミストリア島』────
“新世界”の入り口に位置するこの島は、通常、赤い土の大陸(レッドライン)を“深海ルート”から越えた時、魚人島の次に進む島のひとつだ。
その島に近づくほどに、海上の霧は濃くなっていった。視界が悪いため、船はかなり速度を落としている。
「そろそろ着くよ」
「着くの? 本当に??」
アルビダの言葉が信じられず、アルコは船首から身を乗り出して目を凝らす。しかし 前方の視界は白く包まれ、島などまったくみえない。
アルコは後ろを振り返った。
10メートルほど先の甲板にいるローの姿すら白く霞んで見え、ヤギ達のいる船尾側はまったく見えない。
ミホークの居城『クライガナ島』よりも湿気が多く、まるで雲の中にいるようだ。
「アルコ」
「わっ…!」
アルビダに呼ばれて船に向けていた視線を再び前方へ戻すと、そこには島が間近まで迫っていた。突然目の前に浮かび上がった巨大な島。目を丸くして驚くアルコをみて、アルビダは得意気に赤い唇の端を上げた。
アルビダの仕切りで、クルー達は上陸の準備を始めた。
腰に手を当てて金棒を担いでいる彼女のそばで、アルコも竪琴を背負った。
「そう言えば、アルビダさん。この島へは“仕事”で来たんですよね」
アルコのその質問に、ローも関心があるようだ。
「この島で 戦争でもあるのか」
ローのその推測にアルコはギョッとする。
バギー海賊団は巨大な「海賊派遣組織」。報酬と引き換えに所属する海賊を傭兵として派遣している。
戦争、制圧、略奪、暗殺…
バギーは王下七武海に所属しているため、その行いは海軍や政府から黙認されている。つまり金さえ払えば、誰でもどんな無法行為も許されることになるのだ。
乗船している30人あまりの男達は、話してみると気さくだが、しょせんは『海賊』。見た目も物騒な荒くれ者が多い。
(そんな人達が派遣される、この島での“仕事”って…?)