第26章 漂流
「……オイ、アルコもイかせてやろうか。おればっかり…」
ローが覗きこむと、アルコはすでに規則的な寝息をたてて眠っていた。
汚れた顔で安らかに目を閉じている。
その顔と、記憶の中の故郷の教会にあった『女』の石膏像が重なった。
焼け落ちた教会の ススにまみれた『女』の像
どんな絶望的な状況であっても微笑みを絶やさないその姿
──── ああ そうか
あの『女』は『女神』なのか
こんなに汚れてるアルコを『美しい』と思う
おれは おかしいだろうか
そんなことを言ったら
彼女はいつもの顔で
「やめてよ」と言って
怒りながら 照れながら
笑ってくれるだろうか
今の今まで笑っていた
話していたというのに
もう恋しくなった
その声が、その笑顔が
目の前にいて、触れることができるというのに
なぜか届かないようで
決して自分のものには ならないようで
胸が締めつけられた
ローは込み上がる『素直な』想いを
抑えきることができなかった
ありがとう
アルコ
おれは お前のことが
「────── 好きだ」
すっかり白んできた空は、小屋の中の様子を詳細に照らし始めた。
部屋の血溜りが赤く色づいていく。
ローはその凄惨な部屋の中でアルコに優しいキスをして、冷たい身体を抱きしめながら眠った。