第25章 high sensitivity
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「“海坂”…、登れるんですか?」
「ああ、コイツがおるから大丈夫じゃ。
それより、お前さん達は船の心配をせい! もう本当の本当にギリギリじゃからな。漕ぐなよ。中型魚の一撃にも持たんぞ。キビレ一匹もぶつからせるな。小僧の能力とやらで、絶っ対に なんとかせいよ」
「わかった。
………世話になったな、シルバー」
ローの改まった挨拶に、シルバーは大きくて眩しげな微笑みを返した。
「海は優しくて、残酷じゃ。
人間はひ弱で、すぐ死ぬ。しかし生きとる限り“負け”はせんのだぞ。
………覚えておけ、ロー」
アルコはシルバーとローの男同士の会話を、黙って見届けた。
「アルコさんも。小僧には手を焼くと思うが、“負ける”なよ」
「はい。ありがとうございました」
「ジジィ…、余計なことを」
遠慮のない悪態のつきあいは、まるで おじいちゃんと孫。シルバーもまた、一時ではあったが その関係に救われたのだろう。
シルバーはロープを離し、2隻の船は徐々に離れていった。
アルコと“ジブラ”は、いつまでも手を振っていた。
ローとシルバーは、いつまでも互いの船を見つめていた。
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シルバーは海坂の上に目を向けた。
2頭のイルカが、船に並走して交互に背びれを覗かせる。
「やぁ、兄弟。
そうか、今日は鰯(いわし)が。そうか、そうか」
「頼むぞ、“ジブラ”。アンバーが美味い料理をこしらえて待っとるからのう」
船を曳き始めた“ジブラ”にもねぎらいの声をかけた。
クチバシの大きな白い鳥が船の縁にとまる。
「おや、お前さん、年はいくつだ? そうか、旅は初めてか?
…そうか そうか、上まで連れていってやろう。たっぷり休んでいけよ」
船は、海坂を勢いよく昇る。
シルバーの心には、再び海の生き物達の声が聴こえるようになっていた。