第23章 応酬
「アルコちゃん」
後ろから声がかかり、ビクリと振り返る。
王妃に呼び止められた。
王妃のお気に入りの身体の一部を名前のように呼ばれていたので、彼女にきちんと名前を呼ばれたのは、初めてだった。名前を認識されていたことに驚いた。
不安から、とっさにローの服の裾を掴んだ。
王妃は少し悲しそうな顔をしてから、静かに話し始めた。
「ごめんなさい。
わたくしの無知さを詫びるわ。
国民から、偏見や敵意を向けられて…
いつしか わたくしも同じように、未知なものに対して敵意で応酬することが…染み付いていたのかもしれない」
やっぱり王妃には向いてないわね、と言って目を伏せた。しかしその話し方には、高貴さと威厳のようなものが感じられた。
アルコは、それに圧倒されて何も言えずにいた。
「しばらくこの島にいるなら…、ぜひ王宮に寄ってちょうだい。私の自由にできる部分は少ないけれど」
そう言って、少し迷ってから差し出されたのは左手だった。
アルコはアザが袖で隠されているほうの腕をゆっくりと差し出した。
握手を交わした二人を、ディンは 眼鏡の奥の目を細めて満足そうに見ていた。
ローは行くぞ、と短く言ってタラップを降りていった。
「ありがとう、ロー」
「おれは 何もしていない」
「……そうなんだ」
二人は お尻に刺されるような視線を感じながら、美麗な帆船を降りていった。
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しかしその後、王妃の誘いに従って王宮を訪れることは叶わなかった。
王妃を追い詰めた女王陛下に対して王子は直訴し 真相を暴こうと奮闘するが、権力には敵わず逆に二人は王宮から追放される。
新聞の報道や街の噂では、不義理を働いた王子と王妃が追放されたことになっていたが、実際には二人は王妃の出身国に移住し、王族の肩書きを喜んで外し、自由に暮らしているらしい。
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