第5章 in the dark
「くっ………っ…… …… うっ……」
どのくらいの時間がたったのだろう。
アルコの嗚咽を こらえる音が、部屋に響き渡った。
『気持ち悪い』
『病気持ち女』
『寄るな、死ね』
『うつすなよ』
『気持ち悪い』
想定した言葉が、何も降ってこない。
「はぁっ ……… はぁ、はぁ」
アルコが呼吸を整え始めた時
「珀鉛病だろ」
「っ!!!」
アルコは、涙と鼻水でズルズルになった顔をあげた。
「珀鉛病だろ。なぜ生きている」
最初と変わらない、男の冷静な顔と声。
釣られて冷静さを取り戻さざるを得ない。
落ちたストールで、顔を拭った。
「もうすぐ 死ぬわ」
「あと どれくらいだ」
「ドラム王国の医者が言うには、あと2、3年…」
「妥当だが、早まる場合もある。痛みは?」
「横になった時に……」
ズウゥゥゥー
盛大に鼻をすすりあげ、立ち上がる。
「あなた、何なの?」
「こっちが聞きてェよ。座れ。そっちも脱げ」
本棚の隙間に埋め込まれるように置かれていたソファをアゴで示される。
難しそうな分厚い本がぎっしり詰められた本棚。難しい単語の中に「解剖」「疾患」「治療」などの字が目に留まった。
──── 医者、なの?
潜水艦はずいぶん潜ったのだろう。
男は薄暗くなった部屋の明かりをもう一段階明るくしてから、ソファのちょうど向かいの壁にあるデスクの椅子を引きずってきて、ソファの前に置く。アルコと向かい合うように、大股を開けて座った。
「脱げ」