第5章 情愛と譲歩
『なぜ私をここへ?』
「今後、の身柄は公安で保護する」
『……』
安室から離れる事を決めていた筈が、なぜこんな事になるのか処理が追いつかずにいた。
「列車で会った後に連絡すると言ったはずだ…、保護すると決めていたんだ」
『零…』
「なのにまただ、俺の前から消えた」
『ごめんなさい』
怒るような悲しそうな、また同じ顔をさせてしまったとはどうして良いか分からなかった。
『私はどうすればいいの…私が傍にいれば危険も増える、足枷にもなるわ』
「それ位…俺に甘えてくれ、他の誰かではなく俺に…」
『私の事、許せるの?』
これ以上ないくらい優しく抱きとめられる。
「許す…その代わりもう二度と離れないでくれ…頼む…」
背中に手を回し答える。
『…ありがとう、離れないわ』
自分で許せなかった事を許された。
戻れないはずの彼の元へ戻れてしまった。
せめて彼の足枷にだけはならないと心の中では思った。