第5章 情愛と譲歩
近日中に起こる事態はいつの間にか今日起こる事態となっていた。
工藤夫妻も帰国し各々やるべき事の準備を進めていた。
作戦の邪魔にならないようはコナンからおおまかな説明をもらい、それ以外は自室で過ごしていた。
窓から見える空もすっかり夜になったころインターホンが鳴る。
リビングから話し声が聞こえはじめると、あれ程会いたかった彼の声だと知る。
話し声が止み頃合いを見計らい部屋のドアを開け階段を下りる。
何もないままの再会ならどれ程嬉しかった事だろう。
玄関を出る彼を小走りで追いかける。
『零!』
驚いた顔で振り向く彼がすぐに駆け寄り抱きしめてくれる、また心配かけてしまったんだとは胸が傷み、今から伝える事を思えば更に息苦しさも増す。
「、何でここに…」
『組織の事とかね、色々あってFBIに保護してもらってる』
「なぜ…なら公安で保護を…」
『それは出来ない』
身体が離れると彼と視線が絡んだ。
目を逸らさずに伝える。
『零を裏切った、他の人に縋り付いて寝たの。だからもう…』
「帰ろう」
彼に腕を掴まれ有無も言わさず歩き出す。
『零、離して!』
「帰るんだ」
『もう一緒にいられない!』
後ろで玄関が開いた。
沖矢もとい優作が歩いてくる。
に耳打ちをすると、優作の顔を見て目を見開く。
『どうして?』
「僕は背中を押せと言われただけだからね。保護は"宅配業者"さんがしてくれますね?」
不服そうな顔をする安室は振り返らずに腕を引き歩き出す。
「ええ、もちろん」
『……』
着の身着のままでFDの助手席に乗せられ車は発進した。
(家の鍵すら持ってない…)
無言の空気のまま走ると見た事もない駐車場で停まる。
車を降りまた腕を掴まれ歩くと知らないマンションの前に着く。
『?』
エントランスを抜けエレベーターに乗り鍵が数個ついた部屋へ入る。
「俺のセーフハウスだ」
安室がやっと口を開いた。