第1章 止まれこの想い『宇髄天元』
「!?何言って...」
否定の言葉を紡ごうとした私より先に天元様が声を上げる。
「お前さぁ、あんな置き手紙して、俺が気配に気づかないと思ったのか?」
「え....?」
気配...?
「俺は一応元忍びだからな。人の気配とかなんとかにはすぐ反応するんだよ。んで、今日の夜にお前がなんかやってんなぁとは思ってた。」
「う、うそ....」
(まさか、気づかれてたの?真夜中に出たのにっ....)
「俺も最初はなんでお前がいつもとは真逆の格好してるんだろうとは思ってたよ。しかもこんな真夜中にな。でも俺も眠かったし、どうせ何にも無いだろうと思ってた。」
天元様から語られることに驚愕して何も言葉が出てこない。
天元様から離れるつもりで、一番気づかれない時間を選んだのに、結局天元様に気づかれていたの....?
「だが予感は全くのハズレだったな。俺が気づいたときにはお前はもうこの家から居なかった。」
これまで見たこともないくらい悲しそうな顔をする天元様にこちらまで悲しい気持ちが込み上げる。
(っ、私が一番悲しんだら駄目なのに....っ)
何故か涙が出そうになりそれを必死で抑えた。
「あんなに焦ったのはいつぶりか忘れた。流石に須磨たちを起こすわけにもいかねーし、ふと目に入った置き手紙を見てみたら....俺のことが嫌いになったと書いてるじゃねーか。」
「....!」
そこでまたさっきとは違う空気になり辺りの空気がぴりぴりと揺れる。
「でもよく見ると涙のあとはついてるし紙もグシャグシャになってるし、これが本心じゃないってすぐ分かった。」
「....!!私はっ....」
本心です。
そう言おうとした言葉さえも、天元様が横から奪った。
「じゃあ本心なら、どうしてあのとき大好きですって言ったんだ?」
「....!!!」
(そうだ。天元様には鬼に喰われそうになったときの言葉を聞かれてたっ...)
それを言われるとどうにも言い訳ができなくて声を上げようとするも黙るしか出来なかった。
そんな私に天元様はぽんっと頭に手をおいた。
「!!」
思わず驚いて顔を上げると....
優しい顔をした天元様が、私を見つめていた。