第1章 止まれこの想い『宇髄天元』
走って走って走り続けて、もう1時間くらい経っただろうか。
もうそろそろ足の感覚が無くなってきた。
天元様の家に来てから三人の他のお嫁さんに少しでも近づくためにと必死でくのいちの練習に参加してただけあって、体力はついていたものの。
やっぱり人間は人間。
しかも天元様のように呼吸も使えないため、一時間ほど走ったらすぐに疲れてしまった。
暗い山の中をゆっくりと歩いていく。
まだ夜明けまでは遠いようだ。
ならば今のうちに行かなきゃ。天元様から遠いところまで。
そう思った時だった。
「ぅァァァァあァ!!!!!」
「!?」
すぐ近くで人のものとは思えないような大きな声が聞こえた。
嫌な予感に冷や汗がたらたらと背中を伝っていく。
固まる足を必死に動かそうとするも、恐怖ですくんで足が動かない。
どんっ!どんっ!どんっ!
大きな足音がどんどん近づいてくる。
そして、次の瞬間....
「っ....!!」
見上げるほどの巨体の鬼が、私めがけて歩いてきていた。
「うぉぉ、こんな夜中にこんな女を喰えるなんてなぁ、俺は運がいいなぁ」
ただ震えることしかできない私。
(やだやだやだやだどうすればいい、どうすればっ....)
「てんげっ....!」
天元様。
そう言おうとして思わず言葉を止める。
そうだ、私は。天元様に似合う人なんかじゃ、なかった。
天元様に助けを求めていいような人ではなかったのだ。
(もう私、ここで死ぬのかな。こんな、何も出来ずに。何も達成できずに。)
もう鬼が手を伸ばして私を捕まえようとしている。
あぁ、もう駄目だ。
直感でそう感じた私はそっと目を閉じた。
「.....ごめんなさい。大好きです。天元様。」
最後に、一番愛していた人の姿を思い浮かべて。
「へぇ、大好きなんて言える想いがまだお前にあったとはなぁ」
「!?!?」
聞き覚えのある声に驚いてはっと目を開けると...
「-----音の呼吸 壱の型 轟!」
そう、大好きな人が言う声、呼吸音が聞こえて。
次の瞬間には、鬼の首は、無くなっていた。