第1章 止まれこの想い『宇髄天元』
そう。
私の悩みはこの瞬間だった。
するとぱっと顔を上げた天元様が私を見つめてニコッと笑う。
そして手でちょいちょいとこっちへ招く仕草をした。
「.... 華も来い。」
「...はい。」
そう言われて初めて私は天元様のそばに近寄ってぎゅっと抱きつく。
すると天元様が優しく背中を撫でてくれた。
その優しさに涙が出そうになる。
(私は、天元様とつりあってなんかないのに....)
私の悩み。それは。
私が、天元様と全くつりあっていないこと。
私がここに来たのはちょうど一年前の日だった。
親に捨てられて天涯孤独になっていた私を迎え入れてくれたのが天元様だったのだ。
それが嫁という立場だったことは後から知った事だけど。
もちろん今はみんなと同じように天元様のことが大好きで、愛してる。
だけど....やっぱりどうしても、周りの女の人と私を比べてしまうのだ。
私には誰にでもにこにこできる可愛げもない。
女らしさも兼ね備えている姉御肌でもない。
誰にでも優しく、平等に扱える心の持ち主でもない。
それに加えて胸もない。
そう、周りの人と自分を比べては心が落ち込んでいくのだ。
そして極めつけ。それは。
天元様のことをまだ全然知らない、ということだった。
そりゃそうだ。私は一年前に入ってきたいわば新人。
天元様のこともまだ知らないことのほうが多いし抱かれたことも数えるほどしかない。
だからこそ。
天元様も一緒にご飯を食べているときや、一緒に過ごしているときに。
昔話をされると、私は全く会話に入れなくなってしまうのだった。
私が会話に入れないのを気を使って雛鶴さんが話を止めてくれる。
それが毎回の流れのようなものだった。
でもそうやって話を区切られる度に須磨さんは少しだけ拗ねたような顔をするし、まきをさんも少し寂しそうな顔をする。
そしてそれを見るたびに、私の心はえぐられて、虚しい気持ちが募っていくのだった。