第3章 見えない壁と恋心『煉獄杏寿郎』
「華が奥義を出したことで鬼が斬れたのは良かった。だがあの技はいざというときにしか使ったら駄目だろうと言っただろう。」
「っ、でも私にとってはあれが....」
「いや。華は俺を置いて逃げるべきだった。鬼を倒せたから良かったが、倒せなかったらどうするつもりだったんだ。」
「っ...」
何も言い返すことができずに思わず黙り込む。
(私、また師範の迷惑になっちゃったの?確かに言われてみれば鬼を斬れたのもたまたまだったのかもしれない...)
するとはっと目を開けた師範が私を抱きしめていた力を強めた。
「....そういえば華は奥義を出す前に大好きだと俺に言ったな。」
「!?」
聞かれるはずのなかった言葉を師範から聞いて驚きに目を見開く。
(でも、師範は....)
「師範は気を失っていたはずじゃ....」
「あれは気を失っていたわけじゃなく、疲労で体が動かなかっただけだ。....こう聞くと、柱として恥ずかしいな。」
「っな、師範は誰よりもかっこ....」
そう言おうとした私の唇を師範は抱きしめていた腕を解いてそっと人差し指で塞いだ。
「.... 華。この気持ちに気づくのが遅くなってしまってすまない。」
「....??」
なんのことが分からずに首を傾げる。
すると師範がにこっと笑った。
「俺は、今回の戦闘で確信した。どうしても華に怪我をさせたくない、死なせたくないと思う理由が何か、分かった。」
「!!」
「華。俺はどうも...
君のことが、好きらしい。」
「!!!!」
(......え、)
師範が、言ったことが上手く頭に入ってこない。
体が無意識にかたかたと震え、師範を写している瞳もぼやけてきた。
そんな私を見て師範は笑う。
でもその瞳は冗談やからかいなんてものではなくて。
明らかな愛情が、こもっていた。
「っ、あ....」
嬉しさと驚きで何も考えられずにただ師範を見つめることしかできない私。
そんな私をまたもう一度師範は抱きしめた。
「....今考えると、君はいつも俺に好意を寄せてくれていたんだな。ようやく分かった。」