第3章 見えない壁と恋心『煉獄杏寿郎』
これまでにないほど、頭が冴え渡っている。
鬼がした攻撃すべてがスローモーションに見えた。
(私も、あれを出すときなんだ。)
茂みで倒れて意識を取り戻さない師範をちらりと見て、私は呟いた。
「師範。大好きです。一緒に帰りましょうね。」
そして私はこれまでにないほど振りかぶってゆっくりと息を整える。
(....出すんだ。).
一瞬で広範囲の面積をえぐり取る、あの大技を。
「炎の呼吸」
目を閉じて息を肺に送る。
「奥義 玖ノ型」
(...大好きな師範を守るんだ)
「煉獄!!!!」
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それからのことは、あまりよく覚えていない。
私が技を出したことで鬼の頸は斬れた。
だけどこれまでにないほどの激痛が私を襲って倒れ込んだ。
そして次に目を醒ましたときには....
煉獄家の、布団の中にいた。
(っあれ....私、どうしたんだっけ)
体を起こして記憶の綱を手繰り寄せて必死で色々と考える。
(あぁそうだあの瞬間師範が駆け寄ってきて....何か言ってたな....)
倒れていた師範が体を引きずりながら私に寄ってきて、何かをそっと呟いたのは分かった。
だけどそれが何と言ったかまでは分からなかった。
「っ、師範、会いたいっ...」
師範の傷も確認したいし、何より姿を見て安心したい。
そう思ったとき、
「むぅ!俺ならここにいるぞ!」
「!?」
そのめちゃくちゃ大きい声に驚いて横を見ると、あちこちに白い包帯を巻いて正座している師範の姿があった。
「っ、し、師範〜〜〜〜!!!」
その姿に安堵を抱いてぎゅっと師範に抱きつく。
でもしばらくして....
(あ、師範にこんなことしちゃったら怒られるかもっ...)
そう思って離れようとすると....
「....もうどこにも行くな。」
「!」
師範がそう呟いて私を今度はぎゅっと抱きしめた。
「!?!?」
状況が理解できない私は一方的に体が固まる。
「... #NAME1。聞いてくれ。」
「?は、はいっ」
抱きしめられた体制のまま師範が私に話しかけた。