第3章 見えない壁と恋心『煉獄杏寿郎』
でも師範は柱。
やはり他の隊士と同じようにすぐ負けるわけではない。
でも...。
「ふふふっ!ほんとにこんなもんなの!!!弱っちぃわね!!」
「っ....」
(!まさか師範....)
鬼がそう叫んで攻撃をし、その受け身をとったときに師範は脇腹を庇うようにしていた。
そこで確信する。
(肋が、折れてる....っ)
先程までの激しい戦いと攻防を繰り返していたせいで師範の肋が折れている。
そもそも肋は誰でも折りやすい上に何も処置することが出来ないから折れたら厄介なんだ。
(っ、私が師範を助けなきゃっ....)
でも初めて出会う十二鬼月との恐怖で体がすくんで動かない。
先程のように技を出せそうにも無かった。
すると鬼がぼそりと呟く。
「何よ、もう終わり?」
「!」
その言葉に驚いて慌てて師範を見ると...
「っ、し、師範!!!!」
体中血だらけで必死で肋を抑えながらひゅーひゅーと少ない息をする師範の姿があった。
もう片足は地面についている。
(私が助けなきゃいけないのに、体が動かないっ、どうすればいい、どうすればいいの師範っ....)
その時。
「きゃははっ!もう終わりね!威勢のないやつ!」
「!!」
鬼が下弐と書かれた瞳をふっと細めると、体から見たこともない斬撃が飛び出た。
師範はそれを必死で受け流していく。
(師範、頑張って、師範っ....!!)
でも....砂埃が斬撃で舞って、それが落ち着いた頃には...
師範は、目を瞑って倒れていた。
「師範っ...?師範....!!!!!」
その姿に衝動的に師範に近づく。
でもその気配にも気づかないのか師範は眉毛ひとつも動かさなかった。
「っ...」
慌てて息を確認する。
(あ、良かった、息はある...っ)
とりあえず脈があることを確認して、そっと師範に抱きつく。
「っ、師範っ師範っ師範っ...。私、私....師範のことが、好きですっ」
言うつもりのない言葉とともに、地面にぽたぽたと垂れるものを見てようやく自分が涙を流していることが分かった。
(私、約束を破ります。....ごめんなさい)
「ごめんなさい、師範。私どうしても師範に生きてほしい。」