第3章 見えない壁と恋心『煉獄杏寿郎』
そして、だからこそ。
師範に思いを伝えるべく必死に努力しているのだが、全く通じない。
そう、全く。
ある日は...
『師範!今日は月が綺麗ですねっ!』
『うむ!だが明るいからといって夜更かしはするなよ!』
ある日は...
『師範!私今日師範と寝たいです...』
『うーむ、気持ちは嬉しいが今日は布団があいにく一枚しかない!』
そしてある日は....
『師範!!好きです!!』
『そうか!俺も好きだ!』
結論。
(私、全く女として見られてない...。)
まさか好きだと伝えたときでさえもあの曇りない瞳で好きだと返されるとは思わなかった。
(ううう...どうやったら師範に気持ちを伝えられるのか分かんないよ...)
こんなに鈍感な人ってこの世に存在するのかというくらい鈍感な師範に思いを伝えるのはまだまだ先。
だと思っていた。
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それは、ある日突然訪れた。
いつものように稽古を終えて、いつものように稽古終わりに師範と話していたとき。
あぁ、そうだ、という風に師範が話し始めた。
「え、師範と同じ任務ですか!?」
「あぁ。あいにく他の柱の手が空いていなくてな。それならば華に任せるしかないと俺が勧めた。」
「え、でもそれって下弦の鬼、が潜んでいるところでしたよね...?」
「あぁ。だが安心しろ。華のことは俺が必ず守るし華も一人前にやっていける。」
「わ、私に出来ますかね....」
「できるに決まっているだろう、俺の継子だぞ!」
そんな会話をした、翌日に。
下限の鬼の潜む森に私達は旅立った。
行く途中にいくつものルールを師範と決める。
ひとつは、どちらかが瀕死の状態になったらすぐに助けに行くこと。
ふたつは、師範が死にそうになって、私も危なくなったら私が逃げること。
もちろん後者にはすぐに反対した。
だけど師範は真っ直ぐな目で私を見つめて、頼む。と一言低く呟いた。
そんな願いを、私が断れるわけなかったのだ。