第2章 気づくまでのタイムリミット『冨岡義勇』
でも何故か、否定ができない。
言わなきゃいけないのに。私は義勇さんなんか好きじゃないって。
あんたのことも斬れるって。
でも、さっきの私は斬れなかった。
義勇さんの姿をしたただの鬼だと分かっていても、その鬼を斬ることができなかった。
(あぁ、私-------。)
確信めいた感情が生まれて、思わずぐっと唇を噛み締めた。
物凄く物凄く不本意だけど.....
「華!!!」
「!?!」
ガキン!!
私がその声に顔を上げると、見慣れた半々羽織の姿が私を隠すように鬼の一撃を受けていた。
その隙を狙って、すぐさま私は一撃を入れる。
本物の義勇さんが来たなら、もう迷うことはない------。
「空の呼吸 参の型 起雲欄光!!」
そう私が叫んだと同時に辺りが雲に覆われたように真っ白になった。
そして次の瞬間に鬼の頸が落ちる。
「....よし」
「....」
鬼を倒して、それから何も言うことがなく二人して立ちすくむ。
少ししてその沈黙を破ったのは、義勇さんだった。
「...あれがこの山の最後の鬼だ。」
「...分かりました。」
そこからまたふたりして黙り込む。
でも私はそう平静に答えているものの...
心の中は、嵐が来たようにゴォゴォと吹き荒れていた。
それは...自覚してしまったから。
義勇さんへの、恋心を。
最初は本当に鬱陶しい人だと思っていた。ただそれだけだと。
でも話していくうちに義勇さんの過去を知って、信念を知って。
どの発言にもどこからか皆を思いやっているのが分かった。
そして私は....義勇さんの形をした鬼を、斬れなかった。
どうしても、斬れなかったのだ。
(....これって一応報告しとくべきなのかな。)
色恋とか、そういう訳ではなくて。これからの隊士の情報収集かなにかのために義勇さんに言っておいたほうがいいのだろうか。
(んー....めちゃくちゃ恥ずかしいけど言ったほうがこれからの任務にも役に立つしなぁ...)
淡々と言えば義勇さんもあぁそうか。くらいで済ませてくれるかもしれない。
しかも私はこれ以上の関係を義勇さんに望んでいない。