第7章 ②心が迷うたび、君の元へ。/天窓【月島】
仕事帰りの鉛のようになった身体で、いつもより重く感じる玄関の扉を開けようと、ドアノブに手をかける。
すると、途中から自分とは違う力加わって勝手に扉が開いた。
「……和栗、おかえり」
目の前に、月島さんが立っていた。
「ひゃぇ!?」
ドキーッと心臓が跳ね上がり、思わずその場で固まる。
弱っている時に時々意図せず明治と繋がってしまうこの扉。
早くお風呂に入って寝ることしか頭になく、すっかり油断していた。
「ただい…ま…戻りました」
柄にもない挨拶が、思わず口をついて出る。
「扉の音で、ひょっとしてと思い開けたんだが…すまん、驚かせてしまったか」
「いえ、大丈夫で…」
月島さんの声はいつもと変わらず、顔も落ち着いているんだけど――
「……あの」
間近で私を覗き込むように見つめる月島さんから、気恥ずかしくて思わず視線を落とした。
心臓の音がうるさくて、言葉がうまく続かない。
「何だ」
「なんか、今日すごく近いかなぁー?って」
「……失礼、顔色が気になって」
本人はいたって真面目な顔をして、一歩下がった。
気にかけてくれたのが嬉しくて胸が温かくなる。
ふと顔を上げはにかんでみせると、月島さんの顔がぴたりと固まった。
「え?どうしました?」
凝視していると、彼は小さく咳払いをして、気まずそうに視線を逸らす。
「……そんなに見るな」
「え?」
「俺だって、動揺することくらいある」
「えっ」
「……いや、忘れてくれ」
「私の顔は見るのに、見られるのは嫌なんですか?」
からかうように笑うと、月島さんは観念したように小さく息を吐いた。
「……あなたは、本当に……」
呆れたような、それでいて仕方のないものを見るような声が落ちる。
ふと、彼の手がためらいがちにそっと伸びてきた。
私の頬に触れる直前で、一度ピタリと動きが止まる。
「……触れても?」
「え?……はい」
そんなの、拒む理由なんてあるわけがない。
答えながら、胸の奥が熱く甘く疼いた。
なんだか、今日の月島さんはやっぱり距離が近いな??