第118章 青い花の秘密
「終わりだ」
刃先が喉元へぴたりと突き付けられるが、男はなおも笑みを崩さなかった。
「殺せばいい。俺が死ねば…」
最後まで言い終える前に、信長の拳が男の腹へ深くめり込んだ。
「がっ……」
男の身体がくの字に折れ、その場に膝をつく。間髪入れず、信長は男の折れた長刀を蹴り飛ばし、胸倉を掴んで無理やり立たせた。
「俺は同じことを二度は言わぬ」
静かな声だった。だが、その瞳には凄絶な威圧が宿っている。
「残る六つの青い硝子の花はどこにある」
男は荒い息を吐きながら引き攣った笑い声を上げる。
「……知らんな」
次の瞬間、信長は男の腕を捻り、一切の躊躇なく地へ叩きつけた。
倒れた男の肩を容赦なく踏み付ける。骨が砕ける鈍い音が響く。
「ぐあぁっ!」
男の顔が苦痛に歪む。周囲の者は誰一人としてその場を動けない。
「まだ答えぬか」
信長は男の腕を力任せに捻り上げる。ゴリッという不自然な音を立てて関節が軋む。
「うっ……ぐっ……」
「博多と堺を行き来する商船を襲ったのも貴様らか?」
信長は身動きできぬ男を冷たく見下ろす。
「貴様らだけではあるまい。背後にいるのは何者だ?」
男は脂汗を垂らし、歯を食い縛る。
「…言わぬ」
「そうか」
信長は刀を握り直すと、男の首筋へ切っ先を当てた。
「ならば、この口は必要あるまい」
その一言で、本堂の空気が凍りつく。
男の額から冷や汗が流れ落ちた。これは脅しではない、本気で切るつもりだ……そう悟った瞬間、男は上擦った声を上げていた。
「ま……待て!言う…言うから…待ってくれ」
信長は刀を動かさないまま、短く言う。
「話せ」
男は何度も息を整え、観念したように口を開く。
「硝子の花は全部で七つ…俺達もまだ全ては集めていない。手元にあるのは四つだ。うち二つは博多から堺へ向かう商船を襲って奪った。あとの二つはそれぞれ博多と堺の豪商の蔵から奪った」
「その四つの花は今、どこにある?」
「…………」
躊躇うように言葉を濁し、視線を泳がせる男の首筋に、信長は無言で刀の切先を僅かに滑らせる。赤い血が一筋滴り落ちた。
「ひっ……ま、待て…こ、この寺に…ある。ほ、本堂の奥、仏像のあ、足元の床下に…」
男の言葉を最後まで聞くことなく、秀吉が本堂の方へと駆けて行く。