第118章 青い花の秘密
「がはっ……!」
手首を斬り払われた賊は刀を取り落とし、そのまま信長の蹴りで吹き飛ばされた。誰一人として信長へ近付くことすらできない。
まるで獅子が野犬の群れを蹴散らすように、圧倒的なまでの力量の差を見せつける。
信長の鬼気迫る剣戟に敵がじりじりと後退する中、本堂の奥からゆらりと黒い影が現れた。姿を現したのは、あの笠の男、賊達の頭目だった。
右頬に大きな刀傷を持ち、背には長刀を担いでいる。
仲間が次々と倒されていく中でも男は余裕の笑みを浮かべていた。
「織田信長…そちらから出向いてくるとはな」
信長の表情は微塵も揺るがず、身体中から殺気が溢れている。
「貴様が頭目か。貴様には聞きたいことが山ほどある」
「青い硝子の花のことか。偽物を囮にするとは、我らも侮られたものだ。本物の花はどこだ?」
「俺が答えると本気で思っているのか?」
信長が口角を吊り上げる。その笑みは、獲物を追い詰めた獣だけが浮かべる冷え切った笑みだった。
「ふん…答えぬならば力づくで聞き出すまでだ」
男は背に担いだ長刀をゆっくりと構える。二人の間を張り詰めた空気が支配する。緊迫した場の空気に、信長を取り囲もうとしていた賊達も思わず後ずさる。
次の瞬間、男の姿が視界から消えた。信長がかっと目を見開いた瞬間、男の長刀が唸りを上げ、信長の首筋を薙いだ。甲高い金属音が寺中に響き渡る。
「なっ……!」
男の目が驚いたように見開かれる。
信長は一歩踏み込み、最小限の動きでその一撃を受け流していた。
そのまま間髪入れずに刀を返し、男に鋭い斬撃を浴びせる。
刃が男の頬を掠め、鮮血が飛び散った。
「ぐっ……」
男は大きく後方へ跳び、距離を取る。右頬には新たな傷が刻まれていた。一瞬の出来事に驚愕を隠せない男に対し、信長は眉一つ動かさない。
「口ほどにもないな」
嘲笑とともに、床を蹴る音が轟く。
一瞬で間合いを詰めた信長の一閃が、男の長刀と激しくぶつかり合った。男は歯を食い縛りながら受け止めるが、その腕はじわじわと押し込まれていく。
「くっ……」
「貴様程度では、俺を止めることはできぬ」
信長が力を込めた瞬間、男の長刀に亀裂が走った。
「なっ…」
甲高い音を立てて刃が砕け散る。男の顔から初めて余裕が消えた。
信長は容赦なく刀を振り抜き、その切っ先を男の喉元へと突きつけた。
