第118章 青い花の秘密
瞬間、四方から殺気が膨れ上がる。
屋根の上、建物の影、木々の枝。
いつの間にか十を超える黒装束の男達が周囲を取り囲んでいた。
伊助がジリっと僅かに後退った瞬間、黒装束の男達が一斉に襲い掛かった。
伊助は煙玉を地面へ叩きつける。白煙が夜風に広がり、一瞬にして視界を覆った。
「逃すな。追え!」
怒号が飛ぶ。
しかし煙が晴れた時、そこに伊助の姿はなかった。
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伊助に賊の追跡を命じた後、信長は寺の奥に用意された自身の宿所へと戻る。
「信長様っ」
障子を開けると、朱里が俯いていた顔をぱっと上げる。
外の騒ぎを心配して居ても立っても居られなかったのだろう。不安げな表情のまま、信長の方へと小走りで駆け寄って来る。
「お怪我など…大事ありませんか?」
言いながらそっと信長の腕に触れるその手は、微かに震えていた。
信長は朱里の身体を引き寄せてふわりと抱き締める。
「怖かったか?」
「私は何も…」
「案ずるな。賊どもはまんまと偽物の花を奪って逃げおったわ」
「では、信長様の思惑どおりに…」
青い硝子の花を狙う者の正体と、硝子の花に隠された海図の謎、七つあるはずの花のうち、残り六つの手掛かりを探るため、偽物の花を囮にするというのが信長の策だった。
信長は朱里を抱く腕を緩めると、艶やかな黒髪をひと撫でした。
「だが、これで終わりではない」
低く落ち着いた声音に、朱里は顔を上げる。
「賊は硝子の花を手に入れたと思い込み、必ず根城へと戻る。伊助にはその後を追わせてある」
「伊助さんが……」
「彼奴の足と身のこなしなら、気取られることはあるまい」
朱里は安堵しかけた胸の奥に、再び小さな不安が芽生えるのを感じた。
「でも、もし敵が追跡に気付いたら…」
「その時は、その時だ」
信長は迷いなく言い切る。その揺るぎない眼差しに、朱里は静かに息を呑んだ。
「危うき橋を渡らねば、大魚は釣れぬ」
信長の言葉に、朱里はきゅっと唇を結ぶ。
「…それでも、誰かが危険な目に遭うのは嫌です」
甘い考えだと分かっていても思わず漏れてしまった本音に、信長は静かに朱里を見つめた。