第118章 青い花の秘密
笠の男は布包みを開き、硝子の花をそっと両手に乗せた。
月明かりを受けて、花びらが青白く揺らめく。
「…美しい」
感嘆の声を上げる男を見て、賊達は安堵したように笑う。
「そうでしょう。帝への献上品だ。とんでもない価値があるに違いねぇ」
笠の男は何も答えない。静かに花を持ち上げると、蝋燭の灯りへと透かした。灯りを受けた硝子が青い光を広げる。
無言で花を見つめていた男の瞳が、次第に鋭さを帯びていく。
「……違う」
「え?」
「これは違う」
男の言葉に賊達は顔を見合わせる。
「お頭?違うってどういう意味ですか…?」
笠の男は花を隅々まで確かめてから、机の上にコトリと置いた。
「この花は偽物だ」
「偽物…?」
「本物の硝子の花には海図が隠されている」
その一言に、賊たちは驚いたように息を呑んだ。
「この花はただの硝子に過ぎん」
男は感情の篭らぬ顔で静かに言う。
「じゃ、じゃあ俺たちは……」
「まんまと偽物を掴まされたということだ」
廃寺に重苦しい沈黙が落ちる。
笠の男は偽物の硝子の花を見つめたまま、小さく息を吐いた。
「……やはり信長は侮れぬ」
その頃、屋根の上では伊助が物音ひとつ立てずにじっと耳を澄ませていた。
(海図……あの男は花の中に海図が隠されていることを知っていた)
御館様の読みは当たっていた。
敵の狙いは硝子の花そのものではなく、花の中に隠された海図だったのだ。伊助はその重要な情報を胸に刻み、息を殺したまま瓦の隙間から廃寺の中の様子を窺う。
笠の男は偽物の硝子の花を静かに布へ包み直すと、動揺を隠し切れない仲間達へゆっくりと視線を向ける。
「騒ぐな。偽物と分かった以上、ここに長居は無用だ」
「ですが、お頭。本物はどこに……?」
「信長が持っている」
短い言葉に、その場の空気が張り詰める。
「奴は最初から誰かが硝子の花を狙って来ると読んでいたのだろう。だから偽物を作って噂を流し、我らを誘き寄せた」
賊の一人が悔しそうに拳を握る。
「じゃあ俺達は、信長にまんまと踊らされたってことですか…!」
「そういうことだ」
笠の男は淡々と答えた。