第5章 Walk In The Dark
「……ひよ里に言ってない?」
無言の時の長さがもたらした空気を割くようにコーヒーをぐいと一口飲んだ後、恐る恐る綴は尋ねた。
「言ってない言ってない」
慌てて両手を左右に振ってアピールをする平子に綴はほうっと息をつく。言った時の猿柿の行動を思い浮かべれば、同じくらい付き合いの長い綴もきっと同じ想像をしたのだろう。
「ひよ里の奴、心配するで」
その様子に少し咎めるような平子の声に綴は「分かってる」と返す。
「ひよ里に会いに行ってやってくれへんか?アイツ、綴チャンに会いたがってるから」
「……会いに行けないよ。あの子はあの姿になったこと、まだ折り合い付けきれてないでしょ?私がその元凶の所に行くって分かったらその事に向き合わせてしまうもの」
「それに……」と続けようとして綴は口篭る。言おうとしていた内容は流石に察しがつき、平子は聞かなかった事にした。
「だから、言わないでね」
一般的にはお願いとされるその言葉に、平子は、否、平子の身体は強制的に是の選択を取らされる。先程綴が口にしなかった内容も、この身体が芯から理解していた。
肯定の意思を告げること以外に他の行動が出来ない平子の姿を見て、綴は悲しげな表情を少し見せる。しかしそれを見て眉を下げる平子の姿を確認すると、一瞬のうちに明るい顔に変わった。
「ね、ここ奢りだよね?」
「……えっ!?まあそやな」
「じゃあパフェ食べても良い?」
「付き合ったお礼に良いでしょ?」と上目遣いに聞く綴。あの顔をさせてしまったせめてもの埋め合わせにと許可すれば、一番高いパフェを注文した彼女に平子は「ちょっとは遠慮しろや!!」と突っ込んだ。