第14章 地獄アイドルピーチ・マキ
貴方「えーと……タレントのピーチ・マキさん?」
マキ「バッ…バレた!?」
鬼灯「バレますよ、そりゃあ」
驚くマキを尻目に、一先ずその隣に瓜美、通路側に鬼灯と並んで席についた
服装もさることながら、傍らに置いているドリンクまで桃なのだ
これで気付かない方がどうかしている
鬼灯「こんな全力で桃を主張してる人、桃太郎さん以来ですよ」
マキ「桃太郎って鶴助けて熊と相撲して亀に乗った人でしたっけ?」
鬼灯「それどんなムツゴロウさんですか」
貴方「動物がたくさん出てきたことはなんとなく覚えてるんですね」
その後も珍しい鬼灯のオブラートが通じなかったり、「官吏」を「管理」と間違えてアイドルらしからぬ闇を覗かせたりと見事な天然ぶりを発揮してくれた
きっと彼女はクイズ番組で輝く逸材だろう
今後が楽しみすぎる
両サイドの噛み合わない会話を聞きながら、瓜美は始終クスクスと笑みをこぼしていた
そんな瓜美の様子に気付いたマキは、その笑顔に暫しぼーっと見惚れてしまう。
マキ「お姉さん、すごくキレイ…!お姉さんもどこかで見たことある気がするんだけど、もしかしてモデルさんとか!?」
貴方「ありがとうございます。でも残念ながらモデルではないんだ。私も彼と同じ官吏ですよ」
マキ「まさかその美しさを武器に取引先を惑わして仄暗い契約を…!?」
豊かすぎる発想力に瓜美の笑いは止まるところを知らない
しかし鬼灯はどこか不満げな表情を浮かべていた
折角の貴重な二人きりの時間に、瓜美の意識が他へ向いていることが少し気に入らないらしい
瓜美を挟んで向かい合っているためそんな鬼灯の様子にいち早く気付いたマキはキョトンとした顔で首を傾げた
マキ「お二人は恋人ですか?なんか仕事仲間って距離感じゃない気が…。」
貴方「恋人っていうか鬼灯「どこから見ても完璧で幸福なおしどり夫婦です」…鬼灯、機嫌悪い?」
鬼灯「……別に」
貴方「……ごめんね」
瓜美は頬杖をついてそっぽを向く鬼灯の手をそっと手を伸ばすと、指を絡めて隙間を埋めるようにぎゅっと握りしめる
機嫌をとるように甘い声で謝罪するものの、しかしその弛む頬は全く堪えきれていない
しかしその手はしっかりと握り返して離す気配はなかった