第1章 死を望むもの
「……また来たのか、アイツら」
世界政府の旗を掲げる船に、クマラは目を細め舌打ちをした。彼の不老不死の力を求めた天竜人の名により、日々彼の住まう無人島だった場所へと船はやってくる。それにクマラはほとほと愛想が尽きていた
悪魔の果実を口にして百年。クマラも続くこと日々に飽き飽きしている。だが死ぬことは許されない
悪魔の果実特有の件の“呪い”は祖には適用されず、ただ身体は二十歳のまま、考えだけが年老いて苦しみ続けることを呪いとして与えられたのだから
「嵐脚」
クマラは足を軽く上げ技の名を口にすると、その脚を目にも止まらぬ速さで動かし船を真っ二つに切り離した。島の沖で沈んでいくその姿に、あぁなんて羨ましいとクマラは瞼を閉じる
死ねるものならばとっくに死んでいる。海に入り、ただただ呼吸を奪われ、意識を失い海王類の餌となって朽ち果てる。それが許されてならば、どれだけいいだろう。クマラが海に入り、呼吸を止めたとて死なない。海王類は餌になる所か島まで戻してくる始末なのだ
だから、羨ましい。あんな簡単に沈んだだけで死ねるものが。命の価値観など、こんな状態で狂わずにいられるものか?クマラは完全に沈み、近くの海王類の餌となっていくもの達を遠目で眺め続けた
「……ひまだなぁ」
空を見つめながら、クマラは地面に座り込みそのまま寝そべる。どうせ死なぬならと死んでしまうと言われそうな過度な練習で鍛え上げた身体は、颯爽人間の域を超えた。足を振れば斬撃が飛び、瞬間移動の域で移動が出来る。頑張れば空を飛ぶ事が出来、死なずとも痛いものは痛いからと弾丸を弾く術すら身につけようとしている
「……何か、俺にいい事ないかな……」
独り言を呟きながら、クマラは深いため息を吐き起き上がった。そんな言葉、誰も聞いてくれないことくらい重々承知しているのだ。それでも、やはり何か言うのはくせとして身についてしまっている
「……世界は広いんだよな」
不意にある考えが思いついたクマラは、よっこいせと起き上がり立ち上がった。服に着いた砂埃を叩き落とすと、ジャブジャブと海へ突き進んでいく
彼が見据えるのは、次の場所。無人島とは違う、自分の知らない未知の世界。どうせ死なぬ身。せめて慈悲で死を望んでくれる人間を探しに行くのだ