• テキストサイズ

平等な死などない【ワンピース】

第1章 死を望むもの


男は虚無であった。自らが何と言うのか、何処で、どのようにして産まれたのかを知らない。その手で何を求め、何をすればいいのかも分からない“虚無”であった

そんな男が初めて欲したのは一つの果実。お世辞にも美味しいとは言えないであろう見た目のそれを、男ははじめて欲した。なぜ、どうして。理由は時間が経てど定かではない。でも、欲しいと思った

一つ、齧った。初めて欲したそれは酷く吐き気を催す味で、どれほど言葉を探しても見つかる言葉は「不味い」の一言。初めて魅力を感じた物の結果はこれかと肩を落とす男だが、少し進めたのではないかと前向きに考え顔を上げる

男は虚無だ。何も無い、考えを持ち合わせない空虚な存在だ。それでも、齢二十にして彼は大切なものを得た。何かを探究したくなる心である

そして彼は一つ、その対価としてとあるものを失った。今考えれば、それを知っていれば彼はその禁断の果実を口にすることなどせず、どこぞに封印だと言って完全にこの世から消し去っていたろう

「なん、だ……これ……」

男は馬に引かれた。呆気ない死を迎える筈だった。得たその探究心のままに生きて、死ぬ筈だった。だが、それを対価を奪った果実は許さない

「なんで、どうして……」

血塗れの男の身体は即座に再生し、溢れていた鮮血も止まる。辺りは騒然とし、男は人々から指を指された

「化け物……!!」

男は、“死”を奪われた。祖なる悪魔の果実から、死を選ぶことを奪われた。同種からの迫害を受けた。男は、どうしてとただ嘆く。ただ嘆くことしか出来なかった。……もう、ただの虚無には戻れない
/ 139ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp