第5章 ただそこで生きて
炭治郎は一瞬も迷うことなく私からカッターナイフを取り上げた。
それも刃を思い切り掴んでた。
ああ、私のせいで、また炭治郎が痛くなっちゃったな、なんてぼんやり考えながら、ただ私は抱きしめられていた。
私にそんな価値ないんだよ。
優しくされたらダメなんだよ。私は。
「…が1番、こわい、こと、
…たんじろに、嫌われる、事」
「…え?」
「もうこいつはだめだって、出来損ない、失敗作、ゴミだって、諦められて、捨てられる、こと」
「…うん、うん…」
炭治郎は途切れ途切れにしか言葉を紡げない私の背中を擦りながら、「ゆっくりでいいよ」、と言ってくれた。
どうして私に見切りをつけたりしないんだろう。
こんな奴にどうして優しくしてくれるんだろう。
「さ、さっき…さっきね、炭治郎だって、きっといつかお前を嫌うんだ、捨てるんだって、声が聞こえて、
炭治郎がの絶対の味方だなんて確証、そういえば、どこにもないって、思って、不安で、
嫌われる前に死にたかったよ、苦しい思いしたくないから、死にたかった、なんで止めたの、あのまま死ねたら、でも、止めて欲しかったよ、もうわかんない、ごめんなさい、」
ーーー「捨てないで」。
「…俺がを捨てるわけないよ。
ずっと一緒にいるよ。
むしろなんだか安心した。だって、は、俺に嫌われるのが嫌だから死にたかったんだよな?
それならは、いつまでも死ねないぞ。
俺がを嫌う時なんて絶対に来ないからだ。
残念!俺を舐めるな、!」
わざとおどけて笑ってみせた。
本当は今にも泣きそうだけど。
ああ、無理やり笑うのってこんなに辛いのか。
は、これを毎日続けてるのか。
「俺はもう、誰も死なせないって決めたんだ」
見覚えのない雪景色が目に浮かぶ。
誰かを背負って、ただそこをひたすら走っていた気がする。強い血の匂いがしていた気がする。
夢を見たんだろうか。
酷く哀しい、妙にリアルな、悪夢。
その夢の中で、俺は誰を失ったんだっけな。