第2章 彼女は笑わない
「ごめんね、カラ松兄さん」
トド松が謝ってきた。他のブラザーたちも謝った。
「ごめん、カラ松」
「お前の好きな唐揚げ、おごるからさ。それで許してよ」
「カラ松兄さん、ごめんなさい」
「…………くs……カラ松、ごめん」
俺はブラザーたちに肩を組んだ。
「はっはー!いいさ、こうして無事だったんだから」
「それよりさ。おでこ、どんな感じ?」
「あ、それ俺も気になってた」
「別に何もないぞ。ただ……」
「「ただ?」」
「彼女の寂しそうな顔が心に残るんだ。笑わないんじゃなく、笑えないんだって、笑うっていう感情を知らないんだって気持ちが伝わる」
「……本当に笑い方を知らなかったのか」
「僕たち、随分なこと言っちゃったね」
「今度会ったら、謝ろう」
「「うん、それがいい」」
ブラザーたちは彼女が笑い方を知らないと言ったことを笑ったのを謝るつもりだろう。だが彼女はきっとそんなことよりも、俺を危険にさらしたことを謝るように言うだろう。そんな気がする。
あの日から俺はブラザーたちに無理やり連れ出され、心霊スポットに行くようになった。彼女と約束したことを伝えたが、無駄だった。逆に彼女に会えるだろうと言われ、連れ出されている。だが彼女に会うことはなかった。ただ、霊の存在を感じるようになっていた。感じるだけだが。しかしその度に額が熱くなった。
「カラ松兄さんのおでこ、文字が浮き上がるんだよね」
十四松にそう言われたが、俺はその文字を見ることはできない。その代わり、言葉が脳裏をよぎる。あの時彼女が発した言葉だ。
「ノウマク サンマンダ ボダナン エンマヤ ソワカ」
これを唱えると、その場の空気が変わるのが分かる。ピンとはりつめた空気が一気に緩むような感覚。そこにいる霊を祓ったんだと思える。何の言葉なのか知りたくて、チョロ松に聞いてみた。
「は?知るわけないでしょ」
「調べてみようか?」
「頼む、トド松」
トド松がスマホで調べてくれた。
「閻魔天の真言だって」
「閻魔天?」
「閻魔大王のことだよ。で、真言っていうのは呪文のことね」
「そうなのか」
確か彼女は、自分が閻魔大王の娘だと言っていたな。どうやら本当のようだ。この真言といい、馬人間といい、疑う要素がない。だがなぜ彼女は地獄から来たのだ?わざわざ来るのだから、理由があるはずだ。