第4章 地獄より愛を込めて
「カラ松。お前は人間界の者だ。地獄界の我とは相容れぬ」
「でも俺は、ここにいるぞ?」
「今お前は半分死んだ状態で、まだお前が戻ろうとせぬぬだけだ」
ふっと景色が変わり、○○の屋敷に戻った。
「○○」
「なんだ?」
「さっきはすまなかった」
「何がだ?」
「頬を叩いてしまって…」
「ああ…。あの程度、なんということはない。地獄の責め苦に比べれば、撫でられているようなものだ。気にせずともよい」
「だが…」
「我を想ってのことであろう?むしろ感謝せねばならぬ。ありがとう、カラ松」
柔らかく微笑んだ○○の顔は、まるで観音のようだ。思わず見惚れてしまう。
「どうした?」
「あ、いや。観音みたいだと思ってな。あはは」
「お前は知らないのか」
「えっ?」
「閻魔大王の正体は、地蔵菩薩なのだぞ?」
地蔵………?…………えっ。
「ええええええええええええ?!」
「ぷっ!あははは!」
「い、いやいやいや!想像つかないから!」
「だから何もかもお見通しなのだ。だが口だけでは信じぬゆえ、浄玻璃鏡を使うのだ」
浄玻璃鏡?ああ、閻魔大王の側に置いてあるあれか。
「でも、全然違うじゃないか!」
「仕事用の顔だからな」
仕事用………。仏にもオンとオフがあるのか…。
ふと何か聞こえるような気がして、それを探してみた。
「あ」
テーブルの水晶玉から声がする。
『カラ松!目を開けてくれ!』
『おい、カラ松!戻って来いよ!』
『クs……カラ松兄さん…。俺が悪かったよ!ごめん!』
『カラ松兄さんとまた、歌を歌いたいよ…』
『カラ松兄さん!』
「ブラザー…!」
「愛されているではないか。戻るなら今のうちだ」
……だが俺が戻ったら、○○は?また一人になってしまう。
「○○を残しては戻れない!」
「バカを言うでない。我は元々一人…いや、馬頭王と二人なのだ。気にすることではない」
俺は○○を抱きしめた。
「好きだ、○○!側にいさせてくれ」
○○の手が俺の背中に回される。もう一度しっかりと抱きしめた。
背中の手が、震えている。
「お前は、戻らねばならぬ」
声が、震えている。泣いているんだと気づく。
「戻って、今度こそ幸せにくらせ」