第1章 無遠慮な神様
「おい」
低い声が何かに呼び掛けている。
「おい、まだ生きてるな?」
これはもしかして私に言っているのだろうか。
薄く目を開けると、何か妙な格好をした男がいた。
整った顔を変わったペイントとギラギラの装飾で飾った派手な男だ。
身動ぐとズキズキと背中の一部が痛んだ。
上手く受け身が出来たらしく、頭を打ったりはしていないようだ。
結構高い所から落ちたにしては上出来かな。
「動かない方がいい」
「問題ない」
「いや、派手に背中打ったんだろ」
「貴方には、関係のないことだ。
足も手も動く、呼吸も問題ない、意識も鮮明。
なら、立ち止まる必要を感じない」
「このクソガキ」
ヒクリと口の端が引き上がった男を横目に、起き上がって辺りを見渡す。
ない。
「探してるのはこれか?」
ガチャンと男の手の中で重い音がなる。
「廃刀令が出てるこのご時世に真剣とはな」
「返してくれ。
一応、形見なんだ」
男は少し考え込んでからニヤリと笑った。
「……そうだなぁ、この森を出たら返してやる」
「出口が分かるのか」
「なんだ迷子か?」
呆れたように笑われた。
「目的地がないのだから、厳密には迷子ではない」
「道がわかんないなら一緒だろ」
怪我痛くなったりしたら言えよ、と言ってさっさと歩き出した男の後を少し離れて着いていく。