第17章 灯籠
痛い。思い切り叩きやがって。
ハイタッチをした手はじんじんと痛い。実弥の手は熱かった。皆とハイタッチした私のように。そっか、トロンボーンもハイタッチしたんだね。
息を吸い込む。
私達のソロ。
二人で何回も練習した。
あの時、階段の踊り場でもした。実弥はリズムが覚えられなくて、私は高音が当たらなくて。
この学校の吹奏楽部のトランペットパートとトロンボーンパートの一年生はずっとこの曲を練習する。今日、この日の、この曲の中のほんの少しのソロのため。でも、このソロを吹くことができるのはほんのひとにぎり。
楽器から口を離す。最敬礼で客席に礼をする。観客からの拍手。
あぁ、これが吹奏楽。
私と実弥は目も合わせない。言葉もない。でも。
自然とお互いに拳をつき出していた。
ゴン!!って効果音がつきそうなくらい、思いっきりつき出した。拳と拳が重なる。
そして、自分達の席に戻っていった。
席について違和感を覚えた。…隣の先輩の音が震えてる。鼻水をすする音が聞こえる。
泣いてるんだ、ということにそこで気づいた。
あぁ、ダメだ。私も泣いてしまう。
でもここで泣きたくない。先輩も耐えてる。泣いて吹けないとか嫌。
だけどいつまでも一緒に吹いていたい…。そう思う。
曲は無慈悲にも終わった。
指揮者が立ち上がるよう合図を出す。
立ち上がった。
その瞬間、三年生の先輩たちは火がついたように泣き出した。
宇随先輩の方を見る。
私達の方を見て、にこりと笑った。
私は思わず実弥に目を向けた。
「……」
実弥はむず痒そうに首の後ろを手で擦っていた。