第17章 灯籠
本番はトラブルもなく順調に進んでいく。
最後の最後はアンコール。
この曲は、本当に大事。
アルトサックスのソロが二回あって、トランペットとトロンボーンが全員で吹くアンサンブルがある。
けれど、ちょっとアレンジを加えてトランペットとトロンボーンのアンサンブルはソロになった。
つまり、トランペット一人、トロンボーン一人の合計二人だけで吹く。
これには私と実弥が選ばれた。
先輩が吹くものではないか。そう思った。けれど、トランペットパートとトロンボーンパートの伝統で一年生が一人ずつ吹くことになっているらしい。
トランペットパートとトロンボーンパートの中で数人いる一年生がオーディションをし、選抜された。
そして、サックスパートでははアルトサックスの三年生が吹くのが伝統らしい。そして、決め方はじゃんけんだと決まっているそうだ。
伝統ってよくわかんないな、と思う。
従って、じゃんけんで勝った宇随先輩がソロを吹くことになる。
指揮者が指揮棒を振り、曲が始まる。
ちょっと不安になって実弥のいる方向に目を動かした。
実弥と、目が合った。バチン、といった風に。
それだけだった。それだけで、不安は消えた。
そろそろ一回目のアルトサックスのソロが始まる。宇随先輩が立ち上がり、舞台前方に移動する。
宇随先輩が見事に吹ききった。
そして、二回のソロ。これは長い。わ、すごい。アレンジ加えてる。…皆ニヤニヤ笑ってる。そりゃそうか、こんなの練習でやってなかったもんね。
宇随先輩が舞台前方から席に戻るために振り返る。
私…だけじゃない。実弥も見てる。
ぐっ、と両の拳を突き上げた。
また何か、バチン、と来た。
パーカッションが曲を繋ぐ。
私と実弥が立ち上がる。舞台前方に行く途中、トランペットの人達の前を通らないといけなかった。
練習通りに歩こうとすると、パートの皆が手のひらを私に向けるように腕をのばしていた。
私はそれを見て、トランペットパート全員とハイタッチをしてそこを通った。
こんなの聞いてない。すごいサプライズ。
舞台前方に立つ。隣に実弥が立っている。
実弥がヒラヒラと私に手を振る。まさかと思いつつおずおずと手のひらをだす。
パァン!!