第17章 灯籠
「はっ」
「うおっ」
実弥がすっとんきょうな声をあげる。何をしてるんだ、と私がじとっとみると実弥はあり得ないものを見たように私を凝視してくる。
「何だ、急に」
「え、あー…」
あれ?私、ベンチで寝てたんじゃなかったっけ。おかしいなぁ。寝ぼけてホールのバックステージに来たのかなぁ。
「私、何してるように見えた?」
「はぁ?何かうろうろ徘徊してたみたいだったが…。」
「…そう。」
「…具合悪いのか?」
「…いや……」
あれだけ感じていた睡魔が消え去っている。…やっぱり私、寝たのかな?じゃあ何でここにいるんだろう。夢遊病?
……わかんないなぁ。
でも、確かに向こう側の私と話した。それはわかる。だから、寝ていたはずなのに…。
「ごめん、ちょっと眠くてボーッとして…。意識はっきりしてきたから、もう大丈夫。」
「……お前、最近やたらと寝てねえか?」
実弥がじとっと睨んでくる。
授業中も、勉強会も、テストも。確かに私はグウスカ寝ていた。でもそれは全て、向こう側の私と話しているからだ。
「成長期かな~……ね、寝る子は育つもんね!!」
「……」
誤魔化せていないとわかりながらも、愛想笑いで切り抜けようとした。
「まぁいい。あと十分で楽屋で音出しだからな。」
「……あと…十分…!?」
私はハッとした。眠たくなったのは音出しまであと三十分の段階だ。
嘘。
二十分もたったの?その間、私は何をしていたの?
二十分も眠った?ううん、そんなわけない。私と話すために眠る時間はだいたい数分だもの。そんなに長く話さないもの。
わからないわからない。思い出せない。そもそも思い出す記憶がない。
気持ち悪い。
前に保健室で感じた不快感と似ている。
「……?」
「………」
珍しく名前で呼ばれた。けれど返事ができない。
だめだ、吐くかも。
そう思うほどの気持ち悪さに耐えていたら、誰かがバシン!と私達の背中を叩いた。一瞬息ができなくなるかと思った。
「いやー、熱いですな!お二人さん!!」
「ッ、てめぇ、何しやがる!」
犯人は私と同じトランペットパートの一年生だった。