第17章 灯籠
『……』
「あれ、また来ちゃった…」
そこはあの場所。ガラスで隔たれた場所。
『私の消失が近いことを意味しています…。あなたが私を取り戻そうと、やっきになっている証拠です。』
「…そうなの。…そうかもしれない。」
『……聞きたいことがあるんです。』
「何?」
向こう側の私の様子が少し変だった。元気がないのは相変わらず。本当に消えちゃうんだなって、実感するくらいに。
『…そちらは、幸せですか』
「え?」
『………あなたは…今、幸せ…?』
私は戸惑った。でも答えなければならないと思った。知っているから。
向こう側の私は、【幸せ】を知らないことを、私は知っているから。
だって、向こう側の私の幸せは私が奪ってしまったんだもの。私が今、霧雨が噛み締めた、全ての幸せを独占してしまっているんだ。
「幸せ…だよ。」
『……』
「だから、ねぇ。こっちに来てよ。幸せを知らないまみ消えないで、死なないで。あなたは私、私はあなた。わかるもん。寂しいんでしょ?幸せって何だろうって、そう思いながら生きるのは地獄……幸せを知らないまま死ぬのが『怖くて怖くてたまらない』」
向こう側の私が言葉を被せてきた。
私は驚き目を見開く。
『……その幸せに、私は不要でしょう?』
「…違うよ……あなたがいないと、私幸せになんてなれないよ。」
『……』
向こう側の私はふっ、と微笑んだ。
私はその笑顔から目が離すことができなかった。うそ偽りのない、正真正銘心から溢れるその笑顔から。
『…やっぱり、あなたは私ですね』
「……待って、行かないで…」
『……私も、あなたがいないと幸せになれない…』
向こう側の私は背を向けてしまった。
届かない。
こうなれば、私の声は届かない。