第17章 灯籠
散々吹いてあーだこーだ言っていたら時間が過ぎた。
「悪い、色々教えてもらって」
「いーんだよ。トロンボーンが曲の中で何やってるのかよくわかったし。」
個人練習が終わるとこれからはパートのメンバーでの合わせになる。
そのため、私達はパートの練習部屋へ向かっていた。練習部屋といっても大層なものではない。許可を得て普通学級の教室を使わせてもらっているだけだ。
トランペットとトロンボーンは部屋が隣なので今は二人で歩いている。楽譜に譜面台に楽器にタオルにオイルに…。吹奏楽部はとりあえず荷物が多い。
「そういや、トロンボーンで騒いでたんだが…宇随先輩、引退したら吹奏楽部辞めるんだってよ。」
「え?高等部ではやらないの?」
「美術部一本にするらしい。あの人だけらしいぜ、辞めるの。」
その道中でこんな話をされた。
宇随先輩は耳がいい。絶対音感を持っているから、すごくサックスも上手なのに…。もったいない気がするけど、薄々気づいていた。吹奏楽部で見る宇随先輩より、美術部で見る宇随先輩の方が楽しそうだったから。
「うーん、寂しいけど…私も多分、吹奏楽やるのは中等部だけかな。」
「お前もか」
「え?実弥も?」
今まで黙っていたお互いの考えが一致した。そのことに私達は驚いていた。
「トロンボーンは楽しいぜ?でも、俺は色んな部活をやりてえ。」
「へぇ…。運動部でも入るの?」
「……まだ決めてねえ。お前は何でなんだ。」
「…もう、部活を掛け持ちする必要なくなったから。」
「はぁ?」
私はずっと家にいたくなかった。両親との不仲のためだ。でももう、両親はいないから。
私を、愛するなんてことはしてくれないから。
両親を深く知ろうともせず、自ら捨ててしまった私に愛されるなんて資格はないから。
「そもそも高等部で部活やるかもわかんないしー。」
「…そうかよ。」
実弥はそっけなく答えた。
その後、私達はパート練習に精を出したのだった。